学級づくりの最強アイテム「学級通信」で生徒へ情熱を伝えるトークや、教師と固い絆で結ばれた生徒同士が集団として動く実例など、実際に配られた学級通信のテキストで解説。
まえがきより
生徒-教師間の交換日記と学級通信とを連動させて学級集団形成を促進する。
本書上下巻を貫く私の主張である。
どちらも実践したいのは山々だが、現場は恐ろしく多忙でなかなか着手できない。
どのようにタイムマネジメントをしているのか。
そんな質問が多く寄せられている。
当時の日記から、仕事の仕方を抽出してみよう。
5月第2週は家庭訪問期間であった。
午前中5時間授業をし、給食清掃帰りの会まで指導し、部活に指示を出して、学校を出る。
1日平均6軒を回るというハードな1週間だ。
この週の授業時数は25時間。私の持ち時間は25時間。よって、いわゆる「満タン」だ。
これはいつものことだが、椅子に腰かけるのは給食時の10分少々だけである。
わずかな空き時間や休み時間はそこらじゅうを巡回している。
1日の例外もなく、そんな生活をしている。
昨夜、仲間に学級通信をプレゼントした。
「空き時間がなく、帰りの会後はすぐ部活指導に行っているのに、いつ書いているのですか」と問われた。
給食の時間に、各班を移動しておしゃべりしながら書いている。
そして、掃除と帰りの会の合間の5分間で印刷する。
がんばっているわけではない。自然体でやっている。
がんばってやろうとすると、続かない。脳が疲弊するからだ。
私は続けたい。だから、趣味のようにさらりとやっている。
書ける時に書き、書けない時は書かない。うんうん唸って言葉を絞り出すこともない。
基本、書き出したら最後まで一気に書く。
「こういう言葉は次々と生まれてくるのですか? 」
そうだ。生まれてくる言葉を打ち出す。ただそれだけだ。だから短時間で完成する。
さて、家庭訪問でPTA副会長を務めるパワフルお母さんに問われた。
「先生、あれは本当にうちの娘の文章なのですか? 先生が加筆修正しているのではないですか」?
声をあげて笑ってしまった。
「娘さんだけでなく、ただの一人の文章も直していませんよ」
「だって、娘があんなに立派な文章を書くなんて信じられないんですよ! 」
驚きと感動の混じった表情で、パワフルお母さんは言った。
実際、このひと月で、生徒の文章は変わってきた。
昨年は「生活記録」なるノート(中学版連絡帳)を、三学期にはただひとりも提出しなくなったそうだ。
それが今年はいきなり「日記」を書かされているわけだ。
数倍の負荷に違いない。
もちろん強制ではない。強制は、目の前の生徒の事実に馴染まない。
よって、提出しない生徒も2名いる。A男とB男だ。
それでもよい。
たぶん彼らも、出し始めるだろう。
それがいつになるか。そういうことが楽しみなのだ。
そんな、全力の毎日を過ごして、もう5月も終わろうとしている。
こんな毎日を過ごしていたのだ。
日記をもうひとつ紹介しよう。
別れた翌年、彼らが中3になった合唱コンクールのエピソードである。
帰宅して驚いた。
手紙十数通、DVD6枚。メールもまた十数通が届いていた。
すべて、前任校の生徒、保護者からのものだ。
5日土曜日、勤務校は合唱祭だった。そして前任校もまた合唱祭だった。
気にならないと言えば嘘になる。
昨年10月末のあの経験を経て、3月の学級演劇で大輪の花を咲かせた彼ら。
あれだけ誰も歌わなかった、崩壊状態に等しかった音楽の授業で、「男子が女子の数倍の大きさで歌っています」との連絡を校長先生、生徒、保護者から何度も受けていた。
4月の時点から、だ。
今年の合唱はどうだったか。知りたい気持ちはあった。
今年度の合唱の取組を、数名からのメールでなら知っていた。
当日夜も、複数のメールが届いた。
しかし、手紙となるとまた新たに伝わる物がある。
分厚い便箋が、彼らの葛藤と格闘と感動と成長とを物語る。
保護者の手紙には、「親子で学級通信集を何十回も読み返しています」という言葉が幾つも見られる。
先生無しで、生徒はがんばっています、とも。
「男子の声が、別人です。ほんとうに、別人です。昨年度で、彼らは人間として大きく成長したのです」
ある保護者の言葉だ。
「A男君が、学年男子で最も大きな声で、もっとも上手に歌ったんですよ。先生が蒔いた種から、また新しい花が咲いたんです」
別の保護者の言葉だ。
たった1年の付き合いで、ここまでのつながりができた。
学級を解散し、生活の場を別にしたのちも、彼らは成長を続けていたのである。
多方面からの報告でその事実を知って、ようやく安堵したものである。
最も困難な場を引き受けて、最も質の高い子供達に育てて去る教師。
そのような教師になりたかった。
憧れを力に、ただひたすらに教師修業に没頭した。
編著も含め15冊目の出版となるこの本もまた、教師という仕事に打ち込んでいる、あるいはこれから打ち込もうとする人々に対する、連帯の意を込めた一教師の記録である。
最後になりますが、今回もまた執筆という教師修業の機会をくださった学芸みらい社樋口雅子氏と、
常に我が国の教育の行く末を思い叱咤激励してくださる向山洋一師匠に心からの感謝を申し上げます。
TOSS副代表 NPO法人埼玉教育技術研究所代表理事 TOSS志士舞代表 長谷川博之